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スゲさんは90歳のお誕生日に急に歩行障害が出現し、病院で変形性頚椎症、脊髄性運動失調、頸椎石灰化と診断されました。
それまで日常生活は全て自立されていたスゲさんでしたが、発病後は徐々に自力では立ち上がりも困難な状態となり、食欲や気力・活動量も低下していき、ついにはベッド上寝たきりの生活となってしまいました。

そこで全身状態の観察やオムツ交換、褥瘡の処置を目的にコスモの看護師の介入が始まり、その看護師からの紹介でリハビリ介入も始まりました。

ご家族からの離床希望を受けての介入でしたが、寝たきりの期間が長かったため、スゲさん本人にもご家族にも、どのように離床していくかのイメージが湧いてこないように感じました。

ゆっくりとスゲさんへ聴取すると
「歩いてトイレに行きたい」
「庭が見たい」
という希望を聞くことができました。

そこで一番初めに取り組んだことが、【離床している姿を想像させること】
具体的には、
「食事を家族と一緒にダイニングで食べる」という目標です。

それまではベッド上1人での食事ばかりで会話もない状態でした。介入開始より3か月かけてゆっくりと慎重にリスク管理を行い、徐々に車椅子移乗が家族の見守りでできる状態にまでなりました。
リハビリでの成果を日常生活に組み込むため、この段階でようやくご家族に「ダイニングでの夕食への参加」を提案しました。

気後れがあったのか、初めこそスゲさんは「ひとりの方がいい」と言っていましたが、お孫さんがいたこともあり、すぐに家族そろっての夕食が定着しました。

その頃から徐々にリハビリへのスゲさんの意欲が向上していき、「歩いてトイレに行きたい」という、当初は手の届かなかったものが次の目標となりました。
スゲさんは元々運動神経は良い方で、反復した動作練習を地道に続けたことで、週2回のリハビリの間に、トイレまで歩行器で行けるようになりました。しかし、疾患特性として転倒のリスクは高く、見守り介助は外せない状態でした。また、終日オムツ対応の影響で尿意や便意も不確定な状態だったため、最初は1日のうち時間で誘導してもらうようにご家族へ提案を行いました。

介入から1年半が経過し、歩行器を使い一人でトイレまで歩けるようになり、さらにリハビリパンツを併用することで排泄管理も少しずつ行えるようになりました。また、ダイニングまで歩いていけるようになり、夕飯だけでなく季節のイベントなども家族と一緒に過ごされるようになりました。

介入当初に聞かれていた「庭へ出たい」というスゲさんの希望は、段差などの面から極めて難しいと思われていました。しかし、トイレや食事で習慣的に歩行練習を行ったことにより筋力や体力、さらにバランス能力も向上したことで歩行器使用し見守り介助で庭へ行けるようになりました。
外履きへの履き替えなどは、視力がかなり低下しているため介助者が行っていますが、現在は敷地を出て、近くの公園の木々をみて季節を感じながら、趣味の盆栽の手入れや鑑賞を楽しめるようになりました。

「寝たきりで動けなかったのに、歩けるようになるとは思わなかった」

「(主治医の)先生も、歩けるようになったのは奇跡だと言っていた」

ご本人のがんばりがあってこその喜びの言葉ですが、専門職としてのなによりの励みです。

理学療法士として8年のキャリアの中でも、
「近い目標を達成し、さらに新しい目標を目指していく」という在宅生活に寄り添ったケアが忠実に実践できたスゲさんの事例は、本当に貴重な経験です。

利用者本人やその家族の希望を、
「実現可能な方向」に舵をとって
各サービスと同じ方向に向かえるかを考え、その中で自分が介入したことが何に繋がっているのかをしっかりと理解し、専門職として責任ある判断を行うことが改めて重要だと学びました。