患者さまは重度心身障がいのある16歳、 リンくん(仮名)です。 リンくんは誤嚥がきっかけと思われる気管支喘息発作を起こし入院しました。 以前から誤嚥を繰り返していたこともあり、医師から以後の経口摂取は困難との診断を受けたため、胃瘻による経管栄養に切り替えることになりました。 胃瘻造設術を受け退院後、薬局の訪問が始まりました。 薬局に初めて来た処方箋には ラコールNF配合経腸用液に 「ミルク」 「バナナ」 「コーヒー」 200ml包装×2 /1回分 3種類の味の指示がありました。 |
店舗の在庫担当の事務スタッフから 「バナナ味は在庫していません。取り寄せになりますけれど、味は指定ですか?」と声がかかる中、薬剤師スタッフの間でも 「胃瘻なのだから、味はどれでもいいのでは?」 「1回分が200ml×2なら、400ml包装のお届けの方がいいのでは…」 という疑問が持ち上がりました。 そこでリンくんのお母様に、味と包装の意向について尋ねてみることにしました。 お母様はこうおっしゃいました。 「味は私が希望しました。3種類の味をとり混ぜて処方してもらうよう先生にお願いしたんです」 「400mlだとミルク味しかないと聞いたので…」
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その時、はっと気づきました。 味は何でもいいわけではなかったのです。 口から食べるのではなく胃から入れるので、味はわからないかもしれません。 それでもいろいろな味を体験させてあげたいという母親の愛情がそこにあったのです。 お母様はリンくんを介護しているのではない。 お母様はリンくんを「育てている」のだ。 そんな当たり前のことに、スタッフみんな考えが及びませんでした。 その後もお母様はご自分で味や「フレーバー」の種類についてお調べになりました。 残念ながらフレーバーは製造中止になってしまいましたが、現在は「コーン」味を含めた4種類の味の組み合わせでお届けしています。 これからもリンくんがお母様と一緒に幸せに成長されますことを願い、薬局がすこしでもそのお力になれるように、日々の業務に励んでおります。 |